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北一輝 1883‐1937

日本ファシズムの理論的指導者。本名は輝次郎(てるじろう)。佐渡の生れ。23歳で(国体論及び純正社会主義)を著して発禁。中国革命同盟会に入り、辛亥革命のとき中国に渡り民族主義派と結ぶ。帰国後(支那革命外史)を書き、1916年再度中国に渡る。
1919年に浪人生活中の上海で(国家改造案原理大綱)(のち(日本改造法案大綱)と改題)を執筆。帰国後猶存社に参加、宮中某重大事件などで活動し、国家主義運動の重鎮となる。
また西田税(みつぎ)を通じて皇道派の青年将校に影響を与え、直接に指揮はしなかったが二・二六事件の首謀者として死刑。尊皇討奸

日本改造法案大綱

北一輝が1919年上海で執筆した著作。日本の国際的孤立、国内の階級対立激化を打開するための国家改造を述べる。3年間の憲法停止、戒厳令施行、私有財産の制限、在郷軍人を基礎とする改造内閣の組閣、華族制・貴族院の廃止などを構想。青年将校に読まれ、のちの日本ファシズム運動の経典となった。
二・二六事件はこの著作内容の実現を目ざして起こされた。

猶存社

1919年大川周明・満川亀太郎らが設立した国家主義団体。日本の国家改造とアジア民族解放を標榜(ひょうぼう)。機関紙(雄叫)を発行、北一輝の(日本改造法案大綱)を刊行。
1921年の宮中某重大事件では反山県有朋派として全社をあげて活動したが、のち大川と北とが対立して1923年解散。関連 行地社

行地社

大川周明が中心となって1925年に創立した国家主義団体。猶存(ゆうぞん)社の直系で、日本のファシズム化をめざした。学生内部にも入り込んだが、特に板垣征四郎ら軍部少壮派と関係を結びその後の軍・右翼結合の端緒となった。
1927年内紛により分裂して衰退を続け、1932年神武会に発展的解消した。

大川周明 1886‐1957

右翼国粋主義運動の理論的指導者。山形県生れ。東京帝大でインド哲学を学ぶ。1919年北一輝らと猶存社、1924年行地社を結成。啓蒙活動を行う一方、軍部桜会の将校と接近。三月事件、十月事件に関係し、五・一五事件で検挙。釈放後は法政大学教授を務め、(米英東亜侵略史)などを刊行。
第2次大戦後、A 級戦犯に指名されたが、東京裁判の公判中精神障害を起こし釈放。著書に(日本文明史)、コーランの翻訳がある。

五・一五事件

1932年5月15日に起こった海軍急進派青年将校を中心とするクーデタ事件。井上日召らと関係のあった海軍将校が大川周明から資金援助を受け、陸軍士官学校生徒と協力、首相官邸、内大臣官邸、政友会本部、日本銀行、警視庁などを襲撃、犬養毅首相を射殺した。
一方、愛郷塾生の農民決死隊も東京近郊の変電所を破壊して戒厳令を出させ、その間、大川周明らによる改造政権の樹立を企図したが失敗。日本ファシズム台頭の契機となる。

国家主義

国家に最高の価値をおく考え方。個々人は国家に従属すべきものと考え、国家の中に普遍的倫理が具体化されていると考える。
そのため、国家権力の行使は無制限となり、内に対しては権力独裁体制の危険、外に対しては国家膨張主義の危険を招くことになる。関連 国粋主義

皇道派

日本陸軍内の派閥。荒木貞夫、真崎甚三郎らが中心。十月事件後荒木陸相は宇垣一成陸相時代に形成された宇垣派を排除し、自派の派閥を形成。
皇道精神を主唱するなど極端な精神主義で急進派青年将校の支持を獲得。相沢事件を起こし、二・二六事件で鎮圧されて衰退、統制派がかわった。

二・二六事件

1936年2月26日未明、皇道派青年将校22名が下士官・兵1400名余を率いて起こしたクーデタ事件。皇道派青年将校は北一輝に接近、昭和維新の実現をはかり、武力による国家改造を計画、真崎甚三郎教育総監罷免、相沢事件など統制派の台頭に反発し皇道派の拠点であった第1師団の満州派遣を機に蜂起(ほうき)を決意。
斎藤実内大臣、高橋是清蔵相、渡辺錠太郎教育総監を射殺し、鈴木貫太郎侍従長に重傷を負わせ、陸軍省、参謀本部、国会、首相官邸などを占拠、陸軍首脳に国家改造の断行を要請した。陸軍首脳は戒厳令をしいたが、海軍、財界がクーデタに反対であるのをみて弾圧に転換、反乱軍の規定も〈決起〉〈占拠〉〈騒擾〉〈叛乱〉と四転。29日反乱軍を鎮圧。
首謀者や理論的指導者の北一輝らを死刑、皇道派関係者を大量に処分、統制派が実権を掌握。岡田啓介内閣は倒れ、軍の政治的発言権が強化された。

昭和維新

昭和初期の右翼、一部の軍人、ファッショ陣営が用いた用語。明治維新を国家改造運動の手本とし、天皇を戴いて革命を行うという北一輝らの思想に源流をもつ。
元老・重臣などの〈君側の奸〉、および腐敗した政党・財界を排除することを目指し五・一五事件や二・二六事件などのスローガンとなったが、二・二六事件以後用いられなくなった。

ファシズム

狭義にはイタリアでムッソリーニの指導下にあったファシスト党の、広義には20世紀の全体主義的・国家主義的独裁の運動理念、支配形態。イタリア語ではファシズモ fascismo。
語源は古代ローマの儀式用の束桿を意味する fasces、転じて〈結束〉〈団体〉の意。第1次世界大戦後の資本主義の一般的危機と、それから起きた社会的・経済的混乱や社会主義革命の危機の切迫感から、その存立基盤に不安を感じた中間層が、カリスマ的指導者に率いられて起こした大衆運動。議会政治や言論・出版・結社等の自由をすべて否定し、反革命運動を推進した。
またすべての悪の根元は社会主義・共産主義・ユダヤ人等にあるとし、偏狭な民族主義や排外主義を唱え、しばしば対外侵略政策をとった。ドイツのナチズム(ナチス)や日本の天皇制ファシズムもその例である。ただし、ファシズムを最広義に、〈共同体〉(その大小、出自、体制の相違を問わない)統合の極限的な原理ないし手法と解すれば、これを歴史的事象として清算することはできず、再出現の可能性は常にあると考えなければならない。
その政治的・経済的・社会的側面のみならず、思想や文化にわたる機制の解明が必要とされるゆえんである。

相沢事件

1935年8月陸軍中佐相沢三郎が陸軍省軍務局長少将永田鉄山を白昼斬殺した事件。皇道派の教育総監真崎甚三郎の罷免(ひめん)に憤激した相沢は、統制派の巨頭永田を斬殺した。
皇道派は相沢の軍事裁判を統制派を弾劾(だんがい)する場と位置づけて西田税(みつぎ)らが中心となって統制派を攻撃、両派の対立は激化した。相沢は二・二六事件後の1936年7月死刑。

統制派

日本陸軍内の派閥。中心は旧桜会系統の参謀本部、陸軍省の中堅将校。クーデタによる国家改造を否定し合法的権力樹立のために政財界に接近、皇道派の派閥人事、クーデタ計画に強く反発。
1934年陸相が皇道派の荒木貞夫から林銑十郎に交替後急速に優勢化、軍務局長永田鉄山を中心に皇道派を弾圧。二・二六事件で皇道派を一掃し軍の実権を握り、東条英機内閣で政権も掌握した。

東条英機内閣

1941年10月18日―1944年7月21日。第3次近衛文麿内閣のあとを受けて成立。東条英機首相が陸・内相を兼任。11月5日御前会議で対米英開戦を決定し12月8日開戦した。東条の独裁政権的性格が強く、翼賛選挙により議会を支配。大東亜省を設置し大東亜会議を開催した。
1944年2月内閣改造とともに東条が参謀総長、嶋田繁太郎海相が軍令部総長を兼任して国務と統帥の一本化を図ったが、同年7月サイパン陥落を契機に重臣から倒閣工作が起こり、総辞職。関連 太平洋戦争

日本改造法案大綱 北一輝

。此の改造法案は世界大戰終了の後、大正八年八月上海に於て起草せる者なり。「極祕」を印し謄寫に附して未だ公刊に至らざる時、九年一月發賣頒布を禁ぜらる。
書中「何行削除」とあるは今囘の公刊に際し官憲の削除したる所、行數は謄寫本の行數なり。

。固より削除せられたる一行一句と雖も日本の法律に違反せる文字に非るは論なし。恐くは單なる行政上の目的に出でしと信ず。
從て何等か不穩矯激なる者の伏在せるかに感じて草案者に質問照會する等のなからむことを望む。二三枝を折るも大樹は損傷さるることなし。

。奈翁戰爭が十八世紀と十九世紀とを劃せる如く、十九世紀の終焉二十世紀の初頭は眞に世界大戰の一大段落を以て限らるべし。(世紀の更新を十進數に依りて思考すべからず)。
天の命、二十世紀の第一年を以て此の法案を起草せしめたるを拜謝す。從て前世紀に續出したる舊き哲人等の誤謬多き革命理論を準繩として此の法案を批判する者を歡ぶ能はず。時代錯誤とは是れなり。
昔者娘をして其の母に背かしめんが爲めに來れりと云へる者あり。二十世紀に命じて十九世紀に背くを禁ずる革命論の多きを不審なりとす。

。「」は固より説明解釋を目的とせるも、語辭悉く簡單明瞭、時には只結論のみを綴りし者あり。第二十世紀の人類は聰明と情意を増進して「然り然り」「否な否な」にて足る者ならざるべからず。
現代世界を展開せしめたる三大發明の中火藥が人類を殺すよりも甚しく、印刷術の害毒全世界の頭腦を朽蝕腐爛し盡くせり。爲めに簡明なる一事一物をも迂漫なる愚論なくして解悟する能はざる穉態は阿片中毒者と語る如し。日本改造法案の起草者は當然に革命的大帝國建設の一實行者たらざるを得ず。
從て其れが左傾するにせよ右傾するにせよ前世紀的頭腦よりする是非善惡に對して應答を免除されんことを期す。恐らくは閑暇なし。大正十二年五月 北一輝

緒言

今や大日本帝國は内憂外患並び到らんとする有史未曾有の國難に臨めり。國民の大多數は生活の不安に襲はれて一に歐洲諸國破壞の跡を學ばんとし、政權軍權財權を私せる者は只龍袖に陰れて惶々其不義を維持せんとす。
而して外、英米獨露悉く信を傷けざるものなく、日露戰爭を以て漸く保全を與へたる隣邦支邦すら酬ゆるに却て排侮を以てす。
眞に東海粟島の孤立。一歩を誤らば宗祖の建國を一空せしめ危機誠に幕末維新の内憂外患を再現し來れり。只天佑六千萬同胞の上に炳たり。日本國民は須らく國家存立の大義と國民平等の人權とに深甚なる理解を把握し、内外思想の清濁を判別採捨するに一點の過誤なかるべし。
歐洲諸國の大戰は天其の驕侈亂倫を罰するに「のあ」の洪水を以てしたるもの。大破壞の後に狂亂狼狽する者に完備せる建築圖を求む可らざるは勿論の事、之と相反して、我が日本は彼に於て破壞の五?年を充實の五?年として惠まれたり。彼は再建を云ふべく我は改造に進むべし。全日本國民は心を冷かにして天の賞罰斯くの如く異なる所以の根本より考察して、如何に大日本帝國を改造すべきかの大本を確立し、擧國一人の非議なき國論を定め、全日本國民の大同團結を以て終に天皇大權の發動を奏請し、天皇を奉じて速かに國家改造の根基を完うせざるべからず。
支那印度七億の同胞は實に我が扶導擁護を外にして自立の途なし。我が日本亦五十年間に二倍せし人口増加率によりて百年後少くも二億四五千萬人を養ふべき大領土を餘儀なくせらる。國家の百年は一人の百日に等し。此の餘儀なき明日を憂ひ彼の凄慘たる隣邦を悲しむ者、如何ぞ直譯社會主義者流の巾幗的平和論に安んずるを得べき。階級鬪爭による社會進化は敢て之を否まず。
而も人類歴史ありて以來の民族競爭國家競爭に眼を蔽ひて何の所謂科學的ぞ。歐米革命論の權威等悉く其の淺薄皮相の哲學に立脚して終に「劒の福音」を悟得する能はざる時、高遠なる亞細亞文明の希臘は率先其れ自らの精神に築かれたる國家改造を終ると共に、亞細亞聯盟の義旗を飜して眞個到來すべき世界聯邦の牛耳を把り、以て四海同胞皆是佛子の天道を宣布して東西に其の範を垂るへし。
國家の武裝を忌む者の如き其智見終に幼童の類のみ。


天皇の原義。天皇は國民の總代表たり、國家の根柱たるの原理主義を明かにす。

註一

日本の國體は三段の進化をなせるを以て天皇の意義又三段の進化をなせり。第一期は藤原氏より平氏の過渡期に至る專制君主國時代なり。
此間理論上天皇は凡ての土地と人民とを私有財産として所有し生殺與奪の權を有したり。第二期は源氏より徳川氏に至るまでの貴族國時代なり。此間は各地の群雄又は諸侯が各其範圍に於て土地と人民とを私有し其上に君臨したる幾多の小國家小君主として交戰し聯盟したる者なり。
從て天皇は第一期の意義に代ふるに、此等小君主の盟主たる幕府に光榮を加冠する羅馬法王として、國民信仰の傳統的中心としての意義を以てしたり。此進化は歐洲中世史の諸侯國神聖皇帝羅馬法王と符節を合する如し。
第三期は武士と人民との人格的覺醒によりて各その君主たる將軍又は諸侯の私有より解放されんとしたる維新革命に始まれる民生國時代なり。此時よりの天皇は純然たる政治的中心の意義を有し、此の國民運動の指揮者たりし以來現代民主國の總代表として國家を代表する者なり。即ち維新革命以來の日本は天皇を政治的中心としたる近代的民主國なり。
何ぞ我に乏しき者なるかの如く彼の「でもくらしー」の直譯輸入の要あらんや。此の歴史と現代とを理解せざる頑迷圃體論者と歐米崇拜者との爭鬪は實に非常なる不祥を天皇と國民との間に爆發せしむる者なり。(兩者の救ふべからざる迷妄を戒しむ。)

註二

國民の總代者が投票當選者たる制度の國家が或る特異なる一人たる制度の國より優越なりと考ふる「でもくらしー」は全く科學的根據なし。
國家は各々其國民精神と建國歴史を異にす。民國八年までの支那が前者たる理由によりて後者たる自耳義より合理的なりと言ふ能はず。米人の「でもくらしー」とは社會は個人の自由意志による自由契約に成ると云ひし當時の幼稚極まる時代思想によりて、各歐洲本國より離脱したる個々人が村落的結合をなして國を建てたる者なり。
其の投票神權説は當時の帝王神權説を反對方面より表現したる低能哲學なり。日本は斯る建國にも非ず又斯る低能哲學に支配されたる時代もなし。
國家の元首が賣名的多辯を弄し下級俳優の如き身振を晒して當選を爭ふ制度は、沈默は金なりを信條とし謙遜は美徳を教養せられたる日本民族に取りては一に奇異なる風俗として傍觀すれば足る。

註三

現時の宮中は中世的弊習を復活したる上に歐洲の皇室に殘存せる別個の其等を加へて、實に國祖建國の精神たる平等の國民の上の總司令者を遠ざかること甚し。明治大帝の革命は此の精神を再現して近代化せる者。從て同時に宮中の廓清を決行したり。
之を再びする必要は國家組織を根本的に改造する時獨り宮中の建築をのみ傾柱壤壁のまゝに委する能はざればなり。

註四

  • 華族制廢止。華族制を廢止し、天皇と國民とを阻隔し來れる藩屏を撤去して明治維新の精神を明にす。
  • 貴族院を廢止して審議院を置き衆議院の決議を審議せしむ。
  • 審議院は一囘を限りとして衆議院の決議を拒否するを得。
  • 審議院議員は各種の勳功者間の互選及勅選による。

註一

貴族政治を覆滅したる維新革命は徹底的に遂行せられて貴族の領地をも解決したること、當時の一佛國を例外としたる歐洲の各國が依然中世的領土を處分する能はざりしよりも百歩を進めたるものなりき。然るに大西郷等革命精神の體現者世を去ると共に單に附隨的に行動したる伊藤博文等は、進みたる我を解せずして後れたる彼等の貴族的中世的特權の殘存せるものを模倣して輸入したり。
華族制を廢止するは歐洲の直譯制度を棄てて維新革命の本來に返へる者。我の短所なりと考へて新なる長を學ぶ者と速斷すべからず。既に彼等の或者より進みたる民主國なり。

註二

二院制の一院制より過誤少なき所以は輿論が甚だ多くの場合に於て感情的雷同的瞬間的なるを以てなり。上院が中世的遺物を以てせず各方面の勳功者を以て組織せらるる所以。
普通選拳。二十五歳以上の男子は大日本國民たる權利に於て平等普通に衆議院議員の被選擧權及び選擧權を有す。地方自治會亦之に同し。女子は參政權を有せず

註一

納税資格が選擧權の有無を決する各國の制度は議會の濫觴が皇家の徴税に對して其の費途を監視せんとしたる英國に發すと雖も、日本國自身の原則としては國民たる權利の上に立てさるへからす。則ち如何なる國民も間接税の負擔者ならさるはなしと云ふ納税資格の擴張せられたる普通選擧の義に非す。
徴兵が「國民の義務」なりと云ふ意義に於て選擧は「國民の權利」なり。

註二

國家を防護する國民の義務は國政を共治する國民の權利と一個不可分の者なり。日本國民たる人權の本質に於て、羅馬の奴隷の如く、又昇殿をも許されざる王朝時代の犬馬の如く、純乎たる被治者として或る知者階級の命令の下に其の生死を委すべき理なし。
此の權利と此の義務とは一切の條件に依りて干犯さるることを許さず。従て假令國外出征中の現役將卒と雖も何等の制限無く投票し且つ投票せらるべし。

註三

女子の參政權を有せすと明示せる所以は日本現在の女子が覺醒に至らすと云ふ意味に非ず。
歐洲の中世史に於ける騎士が婦人を崇拜し其眷顧を全うするを士の禮とせるに反し、日本中世史の武士は婦人の人格を彼と同一程度に尊重しつつ婦人の側より男子を崇拜し男子の眷顧を全うするを婦道とする禮に發達し來れり。
この全然正反對なる發達は社會生活の凡てに於ける分科的發達となりて近代史に連なり、彼に於て婦人參政運動となれる者我に於て良妻賢母主義となれり。政治は人生の活動に於ける一小部分なり。國民の母國民の妻たる權利を擁護し得る制度の改造をなさば日本の婦人問題の凡ては解決せらる。婦人を口舌の鬪爭に慣習せしむるは其天性を殘賊すること之を戰場に用ゆるよりも甚し。
歐米婦人の愚味なる多辯、支那婦人間の強奸なる口論を見たる者は日本婦人の正道に發達しつゝあるに感謝せん。善き傾向に發達したる者は惡しき發達の者をして學ばしむる所あるべし。この故に現代を以て東西文明の融合時代と云ふ。直譯の醜は特に婦人參政權問題に見る。(國民の生活權利參照。)

國民自由の恢復。從來國民の自由を拘束して憲法の精神を毀損せる諸法律を廢止す。文官任用令。治安警察法。新聞紙條例。出版法等

註一

周知の道理。只各種閥族等の維持に努むるのみ。


私有財産限度。日本國民一家の所有し得べき財産限度を壹百萬圓とす。海外に財産を有する日本國民亦同し。此の限度を破る目的を以て財産を血族其他に贈與し又は何等かの手段によりて他に所有せしむるを得ず

註一

一家とは父妻子女及ひ直系の尊卑族を一括して云ふ。

註二

限度を設けて壹百萬圓以下の私有財産を認むるは、一切の其れを許さゞらんことを終局の目的とする諸種の社會革命説と社會及人性の理解を根本より異にするを以てなり。個人の自由なる活動又は享樂は之れを其の私有財産に求めざるべからず。
貧富を無視したる劃一的平等を考ふることは誠に社會萬能説に出發するものにして。或者は此非難に對抗せんか爲めに個人の名譽的不平等を認むる制度を以てせんと云ふも、こは價値なき別問題なり。人は物質的享樂又は物質活動其者に就きて劃一的なる能はざればなり。自由の物質的基本を保證す。

註三

外國に財産を有する國民に此限度の及ぶは法律上當然なり。之を明示したる所以は此限度より免かるゝ目的を以てする外國の財産を禁するを明かにしたる者。
佛蘭西革命の時の亡命貴族の例。租界に逃居して財産の安固を計る現時支那官僚富家の例。

註四

社會主義が私有財産の確立せる近代革命の個人主義民主主義の進化を繼承せる者なりとは此の故なり。民主的個人を以て組織されざる社會は奴隸的社會萬能の中世時代なり。而して民主的個人の人格的基礎は即ち其の私有財産なり。
私有財産を尊重せざる社會主義は、如何なる議論を長論大著に構成するにせよ、要するに原始的共産時代の回顧のみ。私有財産限度超過額の國有。
私有財産限度超過額は凡て無償を以て國家に納付せしむ。此の納付を拒む目的を以て現行法律に保護を求むるを得ず。

註一

經濟的組織より見たるとき現時の國家は統一國家に非ずして經濟的戰國時代たり經濟的封建制たらんとす。米國の如きは確實に經濟的諸侯政治を築き終れるものなり。國家は、嘗て家の子郎等又は武士等の私兵を養ひて攻戰討伐せし時代より現時の統一に至れり。
國家は更に其の内容たる經濟的統一をなさんが爲に、經濟的私兵を養ひて相殺傷しつゝある今の經濟的封建制を廢止し得べし。

註二

無償を以て徴集する所以は、現時大資本家大地主等の富は其實社會共同の進歩と共同の生産による富が惡制度の爲め彼等少數者に停滯し蓄積せられたる者に係はるを以てなり。
理由の第二は、公債を以て悉く此等を賠償する時は、彼等は公債に變形したる依然たる巨富を以て國家の經濟的統一を毀損し得べき力を有するを以てなり。第三の理由は、國家として不合理なる所有に對して賠償をなす能はず實に其資本をして有史未曾有の活用をなすべき當面の經綸を有するを以てなり。

註三

違反者に對して死刑を以てせんと云ふは必ずしも希望する所に非す。又固より無産階級の復讐的騷亂を是非するにも非す。
實に貴族の土地徴集を決行するに、大西郷が異議を唱ふる諸藩あらば一擧討伐すべき準備をなしたる先哲の深慮に學ぶべしとする者なり。二三十人の死刑を見ば天下悉く服せん。改造後の私有財産超過者。國家改造後の將來、私有財産限度を超過したる富を有する者は其の超過額を國家に納付すべし。
國家は此の合理的勤勞に對して其の納付金を國家に對する獻金として受け明かに其の功勞を表彰するの道を取るべし。此の納付を避くる目的を以て血族其他に分有せしめ又は贈與するを得ず。違反者の罪則は、國家の根本法を紊亂する者に對する立法精神に於て、別に法律を以て定む。

註一

現時の致富と改造後の致富とが致富の原因を異にするを了解すべし。

註二

最少限度の生活基準に立脚せる諸多の社會改造説に對して、最高限度の活動權域を規定したる根本精神を了解すべし。深甚なる理論あり。

註三

前世紀的社會主義に對する一般且つ有理の非難、即ち各人平等の分配の爲めに勤勉の動機を喪失すべしと云ふ如き非難を此の私有財産限度制に移し加ふるを得ず。第一、私有財産權を確認するが故に尠しも平等的共産主義に傾向せず。而して私有財産に限度ありと雖も聊かも勤勉を傷けず。
一百萬圓以上の富は國有たるべきが故に、工夫は多くの賃金を要せず商家は廣き買客を欲せずと思考する者なし。

註四

私人一百萬圓を有せば物質的享樂及び活動に於て至らざる所なし。國民の國家内に生活する限り神聖なる人權の基礎として國家の擁護する所以。
數百萬數千萬數億萬の富に何等立法的制限なきは國家の物質的統制を現代見る如き無政府状態に放任する者。國家が國際間に生活する限り國家の至上權に於て國家の所有に納付せしむる所以。

註五

私産限度超過者が法律を遵守せずして不可行に終るべしと狐疑する勿れ。刑法を遵守せずして放火殺人を敢てする者あるが故に刑法は空想なりと云ふ者なし。
國憲を紊亂する者に課罰する別個重大精密なる法律を制定する所以なり。


私有地限度。日本國民一家の所有し得べき私有地限度は時價拾萬圓とす。此限度を破る目的を以て血族其他に贈與し又は其他の手段によりて所有せしむるを得ず。

註一

國民の自由を保護し得る國家は同時に國民の自由を制限し得るは論なし。外國の侵略又は其他の暴力より安全に其土地を私有し得る所以は凡て國家の保護による。
資本的經濟組織の爲に國内に不法なる土地兼併が行はれて、大多數國民が其生活基礎たる土地を奪取せられつつあるを見るとき、國家は當然に土地兼併者の自由を制限すべし。

註二

時價拾萬圓として小地主と小作人との存立を認むる點は、一切の地主を廢止せんと主張する社會主義的思想と根據を異にす。

又土地は神の人類に與へたる人權なりと云ふが如き愚論の價値なきは論なし。凡てに平等ならざる個々人は其經濟的能力享樂及經濟的運命に於ても劃一ならず。
故に小地主と小作人の存在することは神意とも云ふべく、且つ社會の存立及發達の爲めに必然的に經由しつつある過程なり。私有地限度を超過せる土地の國納。私有地限度以上を超過せる土地は之を國家に納付せしむ。國家は其賠償として三分利付公債を交付す。但し私産限度以上に及ばず。

其の私産財産と賠償公債との加算が私産限度を超過する者は其超過額丈け賠償公債を交付せず。

註一

日本現時の大地主は其經濟的諸侯たる形に於て中世貴族の土地を所有せるに似たるも、所有權の本質に於て全く近代的の者なり。

中世の所有權思想は其の所有が奪取なると否とを問はず強者の權利の上に立てる者なりき。維新革命は所有權の思想が強力による占有に非ずして勞働に基く所有に一變すると共に、強者が其強力を失ひて其所有權を喪失したる者。
之れに反して、此の私有地限度超過を徴集することは近代的所有權思想の變更に非ず。單に國家の統一と國民大多數の自由の爲に少數者の所有權を制限する者に過ぎず。故に私有財産限度以下に於て所有權に伴ふ權利として賠償を得る者なり。

註二

故に中世貴族の所有地を現今に至るも解決する能はずして終に獨立問題にまで破裂せしめたる愛蘭の土地問題と、此の私有地限度制とは其思想に於ても進歩の程度に於ても雲泥の差あるを知るべし。又現時露西亞の土地沒收の如きは明かに維新革命を五十年後の今に於て拙劣に試みつゝある者に過ぎず。

彼が多くの點即ち軍事政治學術其他の思想に於て遙かに後進國なるは論なし。土地問題に於て英語の直譯や「れにん」の崇拜は佳人の醜婦を羨むの類。將來の私有地限度超過者。
將來其の所有地が私有地限度を超過したる者は其の超過せる土地を國家に納付して賠償の交付を求むべし。

此の納付を拒む目的を以て血族其他に贈與し又は其他の手段によりて所有せしむることを得ず。違反者の罰則は、國家の根本法を紊亂する者に對する立法精神に於て、別に法律を以て定む。
徴集地の民有制。國家は皇室下附の土地及私有地限度超過者より納付したる土地を分割して土地を有せざる農業者に給付し、年賦金を以て其所有たらしむ。年賦金額年賦期間等は別に法律を以て定む。

註一

社會主義的議論の多くが大地主の土地兼併を移して國家其者を一大地主となし以て國民は國家所有の土地を借耕する平等の小作人たるべしと云ふは原理としては非難なし。
之に反對して露西亞の革命的思想家の多くは國民平等の土地分配を主張して又別個の理論を土地民有制に築く者多し。

併し乍ら斯る物質的生活の問題は或る劃一の原則を豫斷して凡てを演繹すべき者に非ず。
若し原則と云ふ者あらば、只國家の保護によりてのみ各人の土地所有權を享受せしむるが故に、最高の所有者たる國家が國有とも民有とも決定し得べしと云ふこと是れのみ。露西亞に民有論の起るは正當なると共に、愛蘭の貴族領が國有たるべきも可能なり。

則ち二者の孰れかを決し得る國家は其の國情の如何を考へて最善の處分をなせば可なりとす。日本が大地主の土地を徴集することは最高の所有者たる國家の權利にして國有なり。
而して日本が小農法の國情なるに考へて之を自作農の所有權に移し以て土地民有制を取ることも、日本としての物質生活より築かるべき幾多の理論を有す。

且つ動かすべからざる原理は、都市の住宅地と異なりて農業者の土地は資本と等しく其經濟生活の基本たるを以て、資本が限度以内に於て各人の所有權を認めらるる如く、土地亦其限度内に於て確實なる所有權を設定さるることは國民的人權なりとす。

註二

此の日本改造法案を一貫する原理は、國民の財産所有權を否定する者に非ずして、全國民に其所有權を保障し享樂せしめんとするに在り。
熱心なる音樂家が借用の樂器にて滿足せざる如く、勤勉なる農夫は借用地を耕して其勤勉を持續し得る者に非ず。

人類を公共的動物とのみ考ふる革命論の偏向せることは、私利的欲望を經濟生活の動機なりと立論する舊派經濟學と同じ。共に兩極の誤謬なり。人類は公共的と私利的との欲望を併有す。從て改造さるべき社會組織亦人性を無視したる此等兩極の學究的臆説を誘導さるる能はず。都市の土地市有制。都市の土地は凡て之を市有とす。市は其賠償として三分利付市債を交付す。
賠償額の限度及私有財産と其加算が私有財産限度を超過したる者は前掲に同じ。

註一

都市と限りて町村住宅地を除外せる所以は、公有とすべき理由が町村の程度に於ては完成せざるを以てなり。

註二

都市地價の騰貴する理由は農業地の如く所有者の勞力に原因する者に非ずして大部分都市の發達其者に依る。
都市は其發達より結果せる利益を單なる占有者に奪はるゝ能はず。以て之を市有とするものなり。

註三

都市は其の借地料の莫大なる收入を以て市の經濟を遺憾なからしむるを得。
從て都市の積極的發達は此財源によりて自由なると共に、其の發達より結果する借地料の騰貴は亦循環的に市の財源を豐かにす。

註四

家屋は衣服と等しく各人の趣味必要に基く者なり。三坪の邸宅に甘する者あるべく數拾萬圓の高樓を建つるものあるべし。
或る時代の社會主義者の市立の家屋を考へし如きは市民の全部に居常且終生劃一なる兵隊服を着用せしむべしと云ふと一般、愚論なり。

註五

既に都市の私有地を許さざるが故に、設定せられたる地上權より利得を計ることを得ず。

則ち借家を以て利得を爲す者は家屋其者よりの利得にして、地上權に伴ふ利益を計上するを得ず。此の爲めに市は五年目毎に借地料の評價をなす。國有地たるべき土地。大森林又は大資本を要すべき未開墾地又は大農法を利とする土地は之を國有とし國家自ら其經營に當るべし。

註一

下掲大資本の國家統一の原則に依る。

註二

我が日本に於ては國民生活の基礎たる土地の國際的分配に於て將來大領土を取得せざるべからざる運命に在り。從て國有として國家の經營すべき土地の莫大なるを考ふべし。
要するに凡てを通じて公的所有と私的所有の併立を根本原則とす。

註三

日本の土地問題は單に國内の地主對小作人のみを解決して得べからず。
土地の國際的分配に於て不法過多なる所有者の存在することに革命的理論を擴張せずしては、言論行動一瞥の價値なし。(國家の權利參照)


私人生産業限度。私人生産業の限度を資本壹千萬圓とす。海外に於ける國民の私人生産業亦同じ。

註一

私有財産限度と私人生産限度とを同一視すべからず。合資株式合名又は自己の財産に非る借入金を以て生産を營む後者の制限は財産の制限たる前者と全く別事なり。

註二

限度を設けて私人生産業を認むる所以は前掲の諸

より推して明なる如く幾多の理由あり。人の經濟的活動の動機の一が私欲にありと云ふも

其一。新たなる試が公共的認識を待つ能はずして常に個人の創造的活動に依ると云ふも

其二。如何に發達するも公共的生産が國民生活の全部を蔽ふ能はずして、現實的將來は依然として小資本による私人經濟が大部分を占むる者なりと云ふも

其三。國民自由の人權は生産的活動の自由に於て表はれたる者につきて特に保護助長すべき者なりと云ふも

其四。數ふるに盡きざる是等の理由は社會主義が其の建設的理論に於て未だ全く世の首肯を得ざる缺陷を示す者なり。「まるくす」と「くろぽときん」とは未開なる前世紀時代の先哲として尊重すれば可。私人生産業限度を超過せる生産業の國有。私人生産業限度を超過せる生産業は凡て之を國家に集中し國家の統一的經營となす。賠償金は三分利付公債を以て交付す。賠償の限度及私有財産との關係等凡て私有財産限度の規定による。

註一

大資本が社會的生産の蓄積なりと云ふことは社會主義の原理にして明白なること説明を要せず。然らば社會則ち國家が自己の蓄積せる者を自己に收得し得るは亦論なし。

註二

現時の大資本が私人の利益の爲に私人の經營に委せらるることは、人命を殺活し得べき軍隊が大名の利益の爲に大名に私用せらるることと同じ。國内に私兵を養ひて私利私欲の爲に攻伐しつつある現代支那が政治的に統一せる者と云ふ能はざる如く、鐵道電信の如き明白なる社會的機關をすら私人の私有たらしめて甘んずる米國は金權督軍の内亂時代なり。
國民の安寧秩序を保持することが國家の唯一任務なりとせば、國民の死活榮辱を日夜に亘り終生を通じて脅威しつつある此等を處分せずしては國家なきに同じ。無政府黨は怖るるの要なし。國家が國家自らの義務と權能とを無視することを畏るべしとなす。

註三

積極的に見るとき大資本の國家的統一による國家經營は米國の「つらすと」獨逸の「かるてる」を更に合理的にして國家が其の主體たる者なり。「つらすと」「かるてる」が分立的競爭より遙かに有理なる實證と理論によりて國家的生産の將來を推定すべし。

註四

大生産業の徴集に於て其等を有し、更に土地徴集に於ても各所に其等を有する大富豪等は、要するに只一百萬圓を所有し得るのみなり。之と同時に一百萬圓以下の株券を有し合資を有する者は、其の干與せる株式會社合資會社の徴集せらるる時一の傷害なき賠償を受くる者なり。
即ち所謂上流階級なる者を除ける中産以下の全國民には寸毫の動搖を與へす。改造後私人生産業限度を超過せる者。改造後の將來、事業の發達其他の理由によりて資本が私人生産業限度を超過したる時は凡て國家の經營に移すべし。
國家は賠償公債を交付し且つ繼承したる該事業の當事者に其人を任ずるを原則とす。違反者の罰則は、國家の根本法を紊亂する者に對する立法精神に於て、別に法律を以て定む。
其の事業が未だ私人生産業限度の資本に達せざる時と雖も、其の性質上大資本を利とし又國家經營を合理なりと認むる時は、國家に申達し双方協議の上國家の經營に移すことを得。

註一

壹千萬圓以上の生産業が國營たるべき爲に起る疑惑は事業家の奮鬪心を挫折せしむべしと云ふことなり。是に對して人類は公共的動物なりと云ふ共産主義者の人生觀が半面より最も有力に説明し盡したるは人の知る如し。且つ利己的欲望其者を解剖するも、事業家の事業經營に於ては其の手腕の發揮を見る自己滿足、其の經營的手腕の社會に認識せらるるを欲する功名的動機が多大に含有せらるるを發見すべし。
現代の將軍等が愛國心の外に此等功名的動機、軍事的手腕を發揮せんとする自己滿足の動機の爲に戰場に死戰するを見よ。彼の戰國時代の將軍等が一州を略せば一州を領し一城を拔けば一城の主たりと云ふ私利的經濟的欲望を掲げたる爭鬪より劣る者なし。固より敢て凡てを事業家の公共的動機に要めず。
其の利己的欲望中に含有さるる斯る幾多の動機は、其の事業を發展せしめたる國家的認識と、國家に移れる事業を其人に經營せしむる手腕發揮の自己滿足とによりて、實に爭ひて私人生産業限度を超越せんとする奮鬪心を刺※し鞭撻すべし。況んや斯る改造組織の後に於ては、公共的動物たる人類の美性は之を阻害する惡制度なきが爲に、著しく國民の心意行動を支配するに至るは確定したる理論を有す。

註二

私人一百萬圓の私的財産を有するに至らば、一切の私利的要求を斷ちて只社會國家の爲めに盡くすべき欲望に生活せしむべし。
私人一千萬圓の私的産業に至らば其の事業の基礎及び範圍に於て直接且つ密接して國家社會の便益福利以外一點の私的動機を混在せしむべき者に非らず。故に此の二者の制限は現今まで放任せられたる道徳性を國家の根本法として法律化するに過ぎざるなり。國家の生産的組織。

其一。銀行省。私人生産業限度以上の各種大銀行より徴集せる資本、及び私有財産限度超過者より徴集したる財産を以て資本とす。
海外投資に於て豐富なる資本と統一的活動。他の生産的各省への貸付。私人銀行への貸付。通貨と物價との合理的調整。絶對的安全を保證する國民預金等。

註一

現時の分立せる銀行と此の銀行省との對外能力を考ふる時、其の差等は殆ど支那の私兵と日本の統一軍隊程の懸隔を見るべし。私兵を糾合して對外利權を爭ふが如きは資本の乏しき日本に取りて必敗なり。

註二

貿易順調にして外國より貨幣の流入横溢し爲に物價騰貴に至る恐ある時、銀行省は其の金塊を貯藏して國家非常の用に備ふると共に、物價を合理的に調整するを得べし。經濟界の好況を却て反對に國民生活の憂患とする現下の大矛盾は一に國家が「金權」を有せざるに基く。

註三

國民膏血の貯金又は事業の運命を決すべき預金等が銀行の破産によりて消散することは國民生活の一大不安なり。如何に岩下清周に重刑を課するも幾寓人の被害者に何の補ひたらず。
大日本帝國が國民と共に亡びざる限り銀行省の預金に不安なし。

其二。航海省。私人生産業限度以上の航海業者より徴集したる船舶資本を以て遠洋航路を主とし海上の優勝を爭ふべし。造船造艦業の經營等。

是れ海上の鐵道國有に過きず。其の外國同業者との競爭能力等は「とらすと」「かるてる」より推論し得べく、以下の各省皆同じ。

其三。鑛業省。資本又は價格が私人生産業限度以上なる各種大鑛山を徴集して經營す。
銀行省の投資に伴ふ海外鑛業の經營。新領土取得の時私人鑛業と併行して國有鑛山の積極的開發等。

註一

資本のみならず鑛山の價格を明示せる所以。機械其他の設備を資本として鑛山其者の價格が資本なることを忘れんとする誤解を防ぐ。

註二

國民の屍山血河によりて獲得したる鑛山(例へば撫順炭鑛の如き)を少數者に壟斷しつつある現時の状態は實に最惡なる政治と云ふの外なし。愛國心の頽廢も無政府黨の出現も國家自らが招く者。

其四。農業省。國有地の經營。臺灣製糖業及び森林の經營。
臺灣、北海道、樺太、朝鮮の開墾。南北滿州、將來の新領土に於ける開墾、又は大農法の耕地を繼承せる時の經營。

臺灣に於ける糖業及び森林に對する富豪等の罪惡が國家の不仁不義に歸せらるる如きは國家及び國民の忍び得べき者に非らず。將來臺灣の幾十倍なる大領土を南北滿州及び極東西比利亞に取得すべき運命に於て、同一なる罪惡を國家國民の責任に嫁せらるゝことは日本の國際的威嚴信用を汚辱し、土地の國際的分配の公正の爲めに特に日本の享有せる領土擴張の生活權利を損傷し、如何なる大帝國建設も百年の壽を全うする能はざるべし。
其五。工業省。徴集したる各種大工業を調整し統一し擴張して眞の大工業組織となして、各種の工業悉く外國の其等と比肩するを得べし。私人の企てざる國家的缺陷たるべき工業の經營。海軍製鐵所陸軍兵器廠の移管經營等。

工業の「とらすと」的「かるてる」的組織は資本乏しく列強より後れたる日本には特に急務なり。又今囘の大戰に暴露せられたる如く日本は自營自給する能はざる幾多の工業あり。自己の私利を目的とする資本制度に依頼して晏如たることは、今日及び今後日本の國際的危機の忍ぶ能はさる所なり。

其六。商業省。國家生産又は私人生産による一切の農業的工業的貨物を案配し、國内物價の調節をなし、海外貿易に於ける積極的活動をなす。 此の目的の爲に凡て關税は此省の計算によりて内閣に提出す。

註一

已に私有財産限度あり、私有地限度あり、私人生産業限度あり。私人は惡用すべき大資本を奪はれたるが故に國家の物價調節に反抗して買占め賣惜み等をなすこと能はず。
從て國家の物價調節は一絲紊れず整然として行はるべし。大地主と投機商人との有する大資本が米穀の買占め賣惜みを自由ならしめて現時の米價騰貴を現出しつつあるを見よ。凡ての物價問題悉く茲に發す。
彼等の大資本を奪はずして物價調節を云ふ如きは抱腹すべき空想政治なり。

註二

國内の物價が世界的原因、則ち世界大戰中の如き世界的物價騰貴の爲に騰貴するときは、國家は一般國民の購買能力と世界市價との差額を輸出税として課税すべし。
公私生産品一律に課税さるるは論なし。斯くして國内物價の暴騰を防ぐと同時に、貿易上の利益を國庫に收得するを得べし。但し此等は非常變態の經濟状態にして輸出税を課する如き原則に非ざるは論なし。而も非常に遭遇したる時國民の不安騷亂を招くが如き國家組織を以てして、如何ぞ大日本帝國の世界的使命を全うするを得べき。
將來一大戰等を覺悟するならば特に非常時に安泰なるべき改造を要す。

其七。鐵道省。今の鐵道院に代へ、朝鮮鐵道南滿鐵道等の統一。將來新領土の鐵道を繼承し、更に布設經營の積極的活動等。私人生産業限度以下の支線鐵道は之を私人經營に開放すべし。

註一

鮮血の南滿鐵道が富豪に壟斷さるるの不義と危險とは鑛業省の註に述べたるが如し。若し將來の大領土に於ける諸多の鐵道を再び南滿鐵道に學ばしむることあらば國民に鬪志なきこと明白なり。

註二

鐵道の國有なるが故に現時の如く民間の鐵道布設が阻害せらるるは、第一國民の經濟的自由を蹂躙するのみならず、國有鐵道其者の利益を減殺するものなり。
陸上の鐵道なるが故に山間僻村の支線をも國有とし、海上の鐵道なるが故に全世界に通ずる幹線をも民有とすべしとは道理に合せざるも甚し。鐵道の國有たるべき者と民有たるべき者と、亦實に私人生産業限度の原則及び大資本の國家統一の原則の下に律せらるべし。國家の大本は一にして二なし。莫大なる國庫收入。
生産的各省よりの莫大なる收入は殆ど消費的各省及び下掲國民の生活保障の支出に應ずるを得べし。從て基本的租税以外各種の惡税は悉く廢止すべし。生産的各省は私人生産者と同一に課税せらるるは論なし。鹽、煙草の專賣制は之を廢止し、國家生産と私人生産との併立する原則によりて、私人生産業限度以下の生産を私人に開放して公私一律に課税す。
遺産相續税は親子の權利を犯す者なるを以て單に手數料の徴収に止む。

註一

國家の徴集し得べき資本の概算は推想するを得べきも、其眞實を去る甚だ遠きことは○○○○○の調査徴集を必要とする所以なり。

註二

國家の生産的收入の増大するに從ひて、啻に惡税のみならず多くの租税を廢止し得るの時來る可きは推想し得べし。

註三

遺産相續を機として國家が收得を計らんとする社會政策者流の人權的思想に不徹底なるを思考すべし。


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